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慢性腎疾患の子どもとその母親・家族の関係発達の諸相

子どもはいかにしてその病気を自らの人生に引き受けるようになるか

定価: 8,250 (本体 7,500 円+税)
筆者自身の事例をもとに「慢性疾患をもつ子どもはいかにしてその病気を自らの人生に引き受けていくのか」について、家族との関係発達に注目して考察した当事者研究。

【著者略歴】
渡部千世子(わたべ ちよこ)
1957年 愛知県生まれ
1981年 名古屋大学経済学部卒業
2009年 中京大学心理学研究科博士後期課程単位取得後満期退学
現 在 中京大学心理学部助教 博士(心理学) 臨床心理士
     キドニークラブ(腎臓疾患の子どもの会)代表
目次を表示します。
まえがき
第Ⅰ部 理論編:「問題の所在・理論・方法論」
第1章 問題の所在と先行研究
 第1節 本論文に取り組む基本動機
 第2節 小児期から青年期への「移行期」が抱える困難と医療的対応の問題
 第3節 慢性疾患の研究の歴史と問題点
  第1項 我が国における慢性疾患の質的な変化と患者のQOLへの注目の動き
  第2項 米国における慢性疾患患者のQOL研究のはじまり
  第3項 1980年代以降に現れた米国における慢性疾患患者のQOL研究の新たな動向
 第4節 患者のQOLと適応について
  第1項 慢性疾患の子どものQOL
  第2項 患者側が捉える「患者自身のQOL」と医療者側の捉える「患者のためのQOL」
  第3項 患者自身のQOLと家族のQOL
  第4項 患者のためのQOLを統合的に捉える
  第5項 慢性疾患をもつ子どもの適応の問題
 第5節 慢性腎疾患をもつ青年の心理に関する研究
 第6節 我が国の医療現場の実情を一人の患者の一つの表現から考える
  第1項 ある患者の悲痛な叫び
  第2項 患者自身による病気の認識,理解,将来展望
  第3項 医療者側は患者のQOLを如何に捉えるのか
  第4項 家族の対応のあり方の問題
  第5項 患者や家族の「生の声」を聴き届ける必要
  第6項 事例の記述の仕方の問題とevidence主義の問題
  第7項 問題点の整理と本論文の基本的な目的
第2章 方法論の模索
 第1節 質問紙調査研究の問題とその限界
  第1項 病気の理解に関する質問紙調査
  第2項 VAST(Visual Analogue Scale for Time Course)の試み
 第2節 江口(1995)の医療人類学的事例研究との出会い
  第1項 江口の医療人類学的視点と,その事例研究のインパクト
  第2項 江口(1995)の「病いの語りとライフヒストリー」から
  第3項 当事者の体験に迫る研究に求められるもの
  第4項 江口論文はなぜ筆者に了解可能だったのか
 第3節 慢性疾患患者を精神科診断基準の視点から観ることの問題点
  第1項 Narrative Based Medicine(NBM)との出会い
  第2項 癌患者に「適応障害」という診断名をつける問題点
  第3項 慢性疾患患者を精神科診断基準で観ることの問題点
 第4節 当事者が研究者になることの問題
  第1項 研究者が当事者である場合の立ち位置
  第2項 研究者が当事者である場合の問題点
  第3項 研究者が当事者である場合の優れた点
  第4項 研究者が当事者である場合の注意点
 第5節 質的研究の問題点
  第1項 発達心理学領域における質的研究
  第2項 グラウンデッド・セオリーの問題点
  第3項 心理学領域の質的研究が目指すもの
 第6節 「エピソード記述」という研究法との出会い
第3章 本論文が依拠する理論としての関係発達論
 第1節 既存の発達理論への批判理論としての関係発達論
  第1項 平均的な子どもの能力発達面にのみ定位することの問題
  第2項 子どもの心の面に目を向けないことの問題
  第3項 個体の発達という観点は子どもの育ちの現実から遊離しているという批判
 第2節 関係発達という考え方
  第1項 各世代の生涯発達過程が同時進行するという考え
  第2項 「育てる―育てられる」という関係は心的な関係を含む
 第3節 主体という概念の両義性
 第4節 両義性という概念
 第5節 「間主観的に分かる」ということの重要性
 第6節 まとめ
第4章 エピソード記述という方法
 第1節 観察者は関与者でもあることの重要性
 第2節 図として浮かび上がってくるものがエピソードになる
 第3節 観主観的に分かったことを描き出すことがなぜ必要か
 第4節 顕きゅう舎を黒衣にしない(研究者自身を観察の一部に含める)
 第5節 エピソード記述の構成
  第1項 エピソード記録とエピソード記述の違い
  第2項 背景がなぜ必要か
  第3項 エピソード
  第4項 メタ観察(考察)
  第5項 いくつかのエピソードを並置して提示すること
 第6節 エピソード記述の了解可能性
 第7節 エピソード記述の実際―患者会の仲間との語り合いから―
 第8節 本研究でのエピソード記述が目指すもの
第Ⅱ部 事例編:「エピソード・メタ観察・総合考察」
第5章 慢性疾患をもつ子どもが「育てられ―育つ」ということ―幼児期発症のネフローゼ症候群の一青年とその母親の事例―
 第1節 筆者の事例の概要
  第1項 病気の経過
  第2項 ネフローゼ症候群について
  第3項 家族の背景
 第2節 筆者のエピソード
  第1項 発病
  第2項 生活制限をしない
  第3項 再発
  第4項 生活への影響
  第5項 私の変化
  第6項 私自身の「やりたいこと」を押し出すこと
  第7項 児童期のQと私
  第8項 思春期のQ
  第9項 青年期のQ
  第10項 Qの自立
  第11項 Qのその後
 第3節 事例の考察
  第1項 事例を振り返って
  第2項 病気であることを理解するということ
  第3項 Qの病気に対する「母親である私の理解の過程」
  第4項 自分の病気に対する「Q自身の理解の過程」
  第5項 母親である私とQとの間の心理的なズレ
  第6項 転機と価値転換
  第7項 Qと母親を支えた人たち
  第8項 母親もまた育てられる
  第9項 まとめ
第6章 総合考察
 第1節 慢性腎疾患がもたらす子どもの発達への影響
  第1項 子どもの慢性腎疾患とはどのような病気なのか
  第2項 慢性疾患の子どものいる家族に生じやすいこと
  第3項 慢性腎疾患がもたらす「発達性の障碍」
 第2節 家族と共に「病気を引き受ける」過程を歩む
  第1項 最初は母親が病気の「受け止め手」になる
  第2項 「腎不全患児の精神療法(春木,1995)」から
  第3項 家族と共に「病気を引き受けて」いく
  第4項 祖父母の役割
  第5項 保育者・教育者の役割
  第6項 患者会(家族会)の役割
  第7項 病気の「受け止め手」の引き継ぎ
 第3節 子どもが「病気であること」を理解し,それを自分に引き受けるようになるまで
  第1項 「こうしたい」という思いを大切に
  第2項 「皆と同じように」の必要性と危険性
  第3項 子どもが主体として生きる
  第4項 思春期に現れてくるさまざまな困難
 第4節 思春期・青年期の依存と自立
  第1項 思春期・青年期における発達課題
  第2項 個体発達論的視点からの「自立観」の問題
  第3項 自立と依存の両義性
  第4項 一時の依存をかかえることの大切さ
 第5節 育てられる者から育てる者へ
  第1項 「育てる―育てられる」という関係の営み
  第2項 子どもは育てられて育つ
  第3項 育てる者もまた育てられる
  第4項 子どもを取りまく人たちもまた,「育てられる」
 第6節 医療者側の対応に求められるもの
  第1項 生活制限が与える心理・社会的な影響
  第2項 「子―母親―医師」間の関係
  第3項 病気に関するネガティブな内容を説明するときの態度
  第4項 小児科から内科への移行
  第5項 “よろず相談”に応じられる人
 第7節 エピソード記述という方法
  第1項 当事者研究に適した研究法
  第2項 研究者の立ち位置を変化させる
  第3項 書くことから生まれる「新しい発見」
 第8節 慢性疾患の子どもと家族の支援にエピソード記述を活かす
  第1項 従来の事例研究とエピソード記述との違い
  第2項 「実際にどうすればよいのか」という疑問
  第3項 エピソード記述を事例検討に活かす
  第4項 今一度,“患者中心主義”の視点に立って
 第9節 今後の展望
  第1項 さらなる研究の展開
  第2項 知見を活かす
付録
謝辞
あとがき
文献
著者渡部千世子 著
発行年月日2013年02月15日
頁数288頁
判型 A5
ISBNコード978-4-7599-1959-2